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青森地方裁判所 昭和23年(行)31号 判決

主文

一  被告が、昭和二二年一二月一九日、別紙目録記載の土地につき定めた農地買収計画を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一  請求の趣旨

主文同旨の判決を求める。

二  請求の原因

(一)  別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、原告の所有に属するものである。

(二)  被告(当時森田村農地委員会)は、昭和二三年一二月一九日本件土地が旧自作農創設特別措置法(以下「自創法」という。)第三条第一項第三号に該当する農地であるとして、同二二年二月二日を買収の時期とする農地買収計画(以下「本件買収計画」という。)を定めたが、同法所定の公告及び関係書類の縦覧をしなかつた。

(三)  原告は、本件買収計画につき、被告に対し、異議を申し立てたところ、昭和二三年一月八日、却下の決定がなされ、その決定書が同月一七日頃送達された。そこで、更に、同年一月二七日、青森県農地委員会に訴願したところ、同委員会は、同年六月三〇日、訴願の申立は、相立たない旨の裁決をし、その裁決書謄本が、同年七月四日、送達された。

(四)  しかしながら、本件買収計画には以下述べるような違法がある。すなわち、

(イ)  村農地委員会が、農地買収計画を定めたときは、自創法の規定により、遅滞なく、その旨公告し、かつ公告の日から一〇日間関係書類を縦覧に供しなければならないにもかかわらず、被告は、前記のように、本件買収計画については全く右の手続をとらなかつた。

(ロ)  本件土地は、それぞれ、福浦一九番畑一反五畝二一歩および鈴島九番田九反六畝二七歩の一部であるから、本件買収計画は、一筆の土地の一部についてたてられたものである。このような場合には、買収せらるべき部分を買収計画において明確にしなければならないにもかかわらず、本件買収計画においては全くこのことがない。従つて、本件買収計画は、買収の対象たる土地の特定を欠いているというべきである。

(ハ)  本件土地(甲)は、公簿上の地目は、畑となつているが、本件買収計画決定当時の状況は宅地であり、宅地として訴外川村兼蔵に賃貸していたものである。従つて、本件買収計画には宅地を農地と誤認した違法がある。

(二) 仮に、右土地が、農地(従つて、小作地)であるとすれば本件買収計画決定当時、原告は、その住所のある森田村の区域内において、小作地として本件土地(賃借人は、(甲)は川村兼蔵、(乙)は外崎金太郎である。)および別表(二)記載の土地(賃借人は、別表(二)備考らん記載のとおりである。)を所有しその面積は、合計一町五反六畝七歩であり、また、自作地として、別表(三)記載の土地を所有し、その面積は、合計二町五反七畝一五歩であつた。

しかるところ、自創法第三条第一項第三号の規定に基く法定の保有面積は三町八反であるから、原告は、三町八反から自作地の面積二町五反七畝一五歩を控除した一町二反二畝一五歩に相当する小作地を保有することができる。

従つて、被告は、原告の小作地一町五反六畝七歩から、右一町二反二畝一五歩を控除した三反三畝二二歩についてのみ買収計画を定めることができるにすぎないのに、本件買収計画において、面積合計九反二畝二四歩の本件土地を買収する旨定め、よつて原告の保有面積を五反九畝二歩侵害している。

(五)  よつて、本件買収計画の取消を求める。

三  被告の答弁および主張

(一)  「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

(二)  原告主張の事実のうち、(一)ないし(三)は、公告縦覧に関する点を除きその余を認める。

(三)  (イ) 適法な公告縦覧をしなかつたとの主張について

被告は、本件買収計画決定に先立ち、買収計画書(草案)を昭和二二年一二月一一日から同月二〇日までの一〇日間公告縦覧に供し、その期間内である同月一九日右草案のとおり本件買収計画を決定したのである。

右は、自創法の規定に合致しないけれども、農地買収事務を円滑敏速に処理するため、当時、しばしば行われた便法である。しかして、たとえ、右のような便法によつたとしても、公告縦覧にかかる草案のとおり買収計画が決定せられていて、何ら利害関係人に不利益を与えたとは考えられないのみならず、元来公告縦覧の手続の目的とするところは、買収計画によつて権利を侵害せられたとする者に対し、異議訴願の機会を与えるにあると解されるから、原告において、本件買収計画樹立の事実を了知し、これに対する不服の手段をつくすことができた以上、もはや、かかる手続上の瑕疵をとらえて本件買収計画を攻撃することは許されない。

(ロ) 本件土地(甲)が、本件買収計画当時宅地であつたことは否認する。

(ハ) 保有面積侵害の主張について

原告所有の自作地には、原告主張のもののほか、別紙(一)記載の土地が存し、その面積は、合計一町一反二畝一三歩に達する。元来、右別表(一)の土地は、別表(四)の土地とともに、原告の所有であつたところ、一括して、自創法第三条第一項第三号の規定により昭和二二年一二月二日を買収の時期として買収せられた。しかして、右買収に当り、別表(一)の土地は、原告が、その長女川村松江に小作させているものと認定され、小作地として買収されたものであるところ、買収令書交付後にいたり、右松江は、原告の同居の家族であつて、何ら小作関係がないことが判明した。そこで、そのまま放置するときは、右土地は松江に売り渡されることとなるから、原告は、同人の名をかりて実質上これを保有することができる上、本来買収せらるべき他の小作地(例えば、本件土地)の買収を免れるという不都合な結果になるので、被告は、昭和二二年一二月一九日、本件買収計画樹立とともに別表(一)の土地に対する買収計画を取り消し、同二三年九月一四日、青森県知事に対し買収処分取消の申請をなし、同月一六日、同知事において買収処分を取り消し、ただちに原告に通知したのである。(当時、右土地については売渡の手続が完結していなかつたから、右取消処分は原告はじめ何人の利益をも害するものではなく、その有効であることは言をまたない。)従つて、別表(一)の土地は、保有面積侵害の有無を決するに当り原告の自作地に算入すべきものであり、これを加算するときは、本件買収計画により何ら原告の保有面積を侵害していない。

四  原告の反駁

(一)  別表(一)の土地が別表(四)の土地とともに、もと原告の所有であつたところ、自創法により昭和二二年一二月二日を買収の時期として買収された(右買収令書は同月上旬原告に交付された。)こと、右別表(一)記載の土地は、原告が長女松江に小作させていた農地であるとして買収されたものであることは認めるが、その余の事実は争う。

(二)  被告は、青森県知事において、別表(一)の土地に対する買収処分を取り消したと主張するが、原告は、かかる取消処分があつたことの通知を受けていないから、右処分は、原告に対し何ら効力がない。

(三)  そもそも、原告の長女松江は、昭和二〇年六月二六日、原告家から事実上分家(戸籍上の届出は、同年一二月二〇日になされた。)して別居生活に入り、現在まで独立して農業を営んでいる。別表(一)の土地は、右事実上の分家に当り、原告が同人の生活の資に充てるため、無償貸与したものである。従つて、右土地を松江の小作地として買収したことは極めて正当で、青森県知事のした右買収処分の取消は松江の分家の事実を看過してなされた不当の処分であり、右違法は明白かつ重大な瑕疵に該当するから右取消処分は無効である。

(四)  また別表(一)の土地については、買収処分の取消のある前に、すでに自創法に基く売渡の手続が完結し、売渡をうけた原告の長女松江において対価の支払を了している。しかして、売渡処分完了後においては、もはや、これに先行する買収処分を取り消すことは許されないと解すべきであるから、この点からいつても前記買収処分の取消は無効である。

(五)  仮に右取消処分が無効でないとしても、買収計画が違法であるかどうかは、買収計画樹立の時を基準として判断すべきものであるところ、別表(一)の土地は、本件買収計画樹立当時、国に帰属し原告の所有地ではなかつたから、その後行われた買収処分の取消によつて右土地が原告に復帰したからといつて、これを保有面積算定の基礎に加え、本件買収計画が適法になつたというべきではない。

五  被告の再反駁

仮に、原告主張のように、別表(一)の土地に対する買収処分が取り消されず、川村松江に売り渡されたものとすれば、同人と原告とは本件買収計画決定当時同居の父子たる関係にあつたから、右土地を原告の保有面積算定の基礎に加えることに何の妨もない。

六  証拠(省略)

(別紙目録および別表は省略する。)

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